雑念書き殴り

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選手レンタル制度のご提案

今年も高校野球の暑い夏が終わる。高校野球と言えば、過酷な連続の試合スケジュールで疲れ切った球児達が終盤になるとミスをして予想外の展開を見せるのが醍醐味というものだ。そして、この感動ストーリーに誤魔化されて何ら議論が進まないまま先送りされる問題、それが投球数問題だ。折りしも、高校野球が行われているさなかにリトル・リーグで若年投手のひじの故障の多さが問題になって本格的に投球数制限が導入されるとの話が進んでおり、それと比べて何年も議論があるのに全く結論が出ない高校野球連盟の動きの遅さには甚だ遺憾と言わざるを得ない。

 

どうして医学者も当事者であるスポーツ選手の多くも投球数制限の必要性を訴えているのに、高校野球で投球数制限の導入が進まないのだろうか?某日曜日午前のワイドショー番組のご老体のようなスポーツ根性論にしがみつく人たちは問題外として、やはり大きな問題はこの投球数制限の導入が高校野球の美徳の一つである全ての高校が等しく参加する権利を持つという平等の理念と実質的に相容れないからであろう。甲子園に出場する強豪校の多くがベンチに入れない野球部員が100人以上も出てスタンドで応援に回るような学校ばかりの昨今であるが、地方大会を見れば部員を9人揃えるのがやっとという様な学校でもちゃんと出場出来る。我が母校も進学校で体育会系のクラブはお世辞にも強いとは言えない学校ではあるが、ちゃんと毎年野球部が地方大会に出場している。とにかくきちんと試合が成立するだけの野球部員さえ揃えることが出来れば等しく出場する権利があるのが高校野球の美徳なのだ。

 

ところが、投球数の制限はこれに真っ向から水を差す。概ね投手の連続して投げる投球数は100球が限度で、100球投げた後は十分な休養をとることが望ましいとされるが、甲子園で決勝まで進むような学校だと甲子園の期間だけでも数百球の投球数となるのがざらである。なので、100球制限が導入されると投手を5,6人ベンチ入りさせるだけの人材がいないと出場出来ないことになる。もちろん、9人しか選手がいないチームであっても、選手全員に投手の役割を回せば試合は成立させることが出来るが、投手というのは専門的なポジションであり、投手としてみっちりとトレーニングしてこないと試合では通用しない。従って、投手を十分な人数集める事が出来ない学校は、100球制限が導入されると地方大会でも早々に交代投手がいなくなって、まともに試合できないことになってしまう。それはすなわち、どんな学校でも甲子園に出場出来る可能性があるという平等の幻想の崩壊である。

 

まあ、なんだ、そもそも平等なんて幻想なんだよ。甲子園を見れば、出場してる学校はどこも野球部員が100人を超える学校だ。みんな甲子園に出たいから強豪校に集まり、いつの間にか強豪校の中でレギュラー取れないよりはと地方にわざわざ移住してレギュラーを狙う高校生まで出てくるようないびつな状態だ。弱小野球部がなんとか9人部員を集めて頑張って高校野球を目指す、なんてのは漫画の中の世界だ。そんな学校が甲子園に出るには、偶然天才的な投手がその学校に入学し、その投手がひじを壊さずに全ての試合を投げ切るしかない。だから、完全に全てが平等であるべきだ、なんて幻想は捨てよう。ルールを工夫して、高校野球の醍醐味を壊さずに、そして、平等であるという条件をあまり壊さずに、なんとか投球数制限を導入してもどんな学校でも試合を続けるようなシステムを作り出そう。

 

そこで、僕は選手レンタル制度の導入を提案する。仕組みは簡単だ。地方大会で対戦して勝ったチームは、負けたチームから一人選手をレンタルすることが出来るという仕組みだ。もし、試合に勝てば相手から選手をレンタルすることができるならば、自チームの投手が十分いなくてもとにかく目の前の試合を全力で勝つことが出来れば可能性が開ける。投手が足りなくて投球数制限下で十分なローテーションが組めないような弱小チームでも、勝ち進んで相手チームから投手を次々とレンタルして補強すればローテーションが組めるようになる。レンタルされる側の選手にもメリットはある。トーナメント制で戦う高校野球は、どこかの時点で負けるとそこでシーズンは終わりだ。だが、相手チームからレンタルの要望があれば、その選手は続けて活躍する機会が与えられるのだ。もし、そうやってレンタルされた相手のチームで甲子園に出ることが出来れば、そこで活躍してプロ入りというのも夢ではない。借りる側にも貸す側にも大きなメリットがあるのがこのレンタル制度だ。

 

もちろん、いくつかの条件は必要であろう。まず、レンタルで借りる選手の枠は最初からベンチに空きとして用意しておかなければならない。これは、自校の野球部員だけで十分にベンチ入りする選手を用意出来る学校が、相手チームの有力選手をレンタルしてどんどん有利になるのを防ぐために必要だろう。地方大会の対戦校が決まる前に何人の選手をレンタルで補強するかを考えてベンチに空きを作っておくことを義務づければ、レンタルに備えてベンチに空きを作るかそれともレンタルを期待せずに自校選手で埋めておくかも一つの戦略になる。次に、レンタルした選手の意思を尊重することを義務づける。レンタルした選手は、当の選手が希望する限り常にベンチに加えなければならない。そして、選手にはいつでも自由にベンチ入りを拒否する権利を与え、拒否したとしてもその選手で埋めたベンチの空きを他の選手のレンタルで埋めることはできない。そうすれば、レンタルされた選手をレンタルしたチームが横暴に扱うことは限りなく少なくなるだろう。あくまでもレンタルをした選手を尊重してチームの一員としてわけへだてなく起用しなければレンタルの利点を活用できないようにレンタルしたチーム側を縛っておくのだ。そして、大事なのは投球数制限をきちんと守って投手の故障を防ぐことだ。だから、熱戦を繰り広げた対戦相手から投げ切った投手をレンタルしたとしてもすぐに次の試合では活用出来ないことになり、戦略的にレンタル選手を選ぶという面白みにも繋がって行く。

 

このレンタル制度があれば、野球部員の足りない学校でも試合に勝てば勝つほど試合を継続するために必要な選手を補強でき、強豪校は今のまま自前の十分な選手層を活用できる。選手にも活躍の機会を増やし、それによって選手のアピールチャンスが増えればプロ入りする人材も増えるだろう。レンタルされた選手がいる学校の関係者は当然レンタル先の学校を応援するだろうから、高校野球を応援する人たちの数も増やすことが出来、その結果、甲子園の入場料の収入も増えて高校野球の運営にもプラスになるだろう。誰一人損する人のいないこのレンタル制度、球児の健康も守れて一石二鳥だと思うのだがいかがだろう?