雑念書き殴り

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コンビニ問題、たった一つの冴えたやり方

コンビニにまつわる問題が最近世間を騒がせている。少し前は恵方巻きや弁当などの食材が大量に売れ残って廃棄される問題が議論されたし、最近では24時間営業は是か非かといった問題が活発に議論されている。やれ、コンビニはもはや社会インフラだ、とか、災害時の役割がある、だとか、消費者も健全なコンビニのあり方に協力すべきである、とかいろんな意見があるが、根本的な構造的問題に踏み込んでいないのがどうにももどかしい。

 

その根本的な構造的問題とは、フランチャイズのロイヤリティー契約だ。もちろん、ロイヤリティー契約がなければそもそもフランチャイズなんて形態での経営は出来るはずがない。でも、今のロイヤリティー契約の形態こそが、多くの問題を産んでいる元凶なんだから、そこに触れずに目先の問題を解決しても、そんなのは場当たり的解決に過ぎない。

 

今のロイヤリティー契約は、おおざっぱに言うと営業利益に対して一定の割合(加盟店ごとの契約によって変動する)でロイヤリティーが発生する。ここでいう営業利益とは、実際の売り上げから商品仕入れの代金を引いた粗利のことだ。営業利益からロイヤリティーがさっ引かれた後、残った利益から人件費や光熱費などの店舗を回すために必要な経費を引いた残りがオーナーの得られる利益となる。この仕組みがコンビニで起きている様々な問題を引き起こす原因となっている。

 

1) 24時間営業問題

 

コンビニ加盟店は24時間営業を義務づけられている。これに違反するとペナルティを支払わなくてはならない。ところが深夜営業を行うと売り上げはそれほど大きくないにも関わらず、昼間よりも高い人件費を払わなければならない。しかし、フランチャイズの契約上、本部は売り上げさえ上がればそれがどんなに微々たるものでもロイヤリティー収入が発生する。一方で、それによって増加したコストはすべてオーナーが負担する仕組みになっている。深夜営業のコストに見合う売り上げが発生しようとしなくとも、本部は確実に深夜営業によって利益を得る仕組みになっているから、コンビニ各社は時短営業に及び腰なのだ。これって、消費者が多少の不便を我慢して協力するとかいう問題じゃなくね?

 

2) ドミナント出店問題

 

海外の一部の国では明確に規制されていたりもするのに日本では全く規制がないのがドミナント出店だ。潜在的顧客がいる地域に集中的に出店数を増やすことによって、その地域におけるブランド集客力を高め、競合ブランドに対抗して利益を最大化することが出きるとされている。でも、これって本部にとって利益を最大化できるだけなんだよね。本部のロイヤリティー収入は売り上げが増えれば確実に増えるから、その地域で自社ブランドが獲得出来る顧客数が増えればその分だけ確実に増える。顧客数の増加は潜在的顧客の掘り起こしであったとしても、他ブランドとの競争に勝って自社ブランドに誘導出来た結果でもどちらでも構わない。ところが、加盟店にとってはそうじゃない。全体の顧客数が増えたとしても、全体の顧客数をその地域に出店している加盟店で分配するわけだから、加盟店の数が倍になれば、当然顧客数も倍になっていなければ各加盟店の利益を賄う事が出来ない。なぜなら加盟店が負担する店を回すための経費は加盟店の数に比例するからだ。ところが、フランチャイズ本部にとっては、加盟店が増えれば増えるほど収入が増すシステムになっているのだから、大きな利益が上がっている店舗ほど、近隣にドミナント出店をしてその店舗でまかない切れずに取りこぼしているであろう顧客を獲得しようというモティべーションになる。逆に他社がドミナントを仕掛けて来てその地域の顧客を奪われればそれだけ収入が減る仕組みになっているのだから、どこか一社でもドミナント戦略を取れば、当然どのフランチャイズドミナント合戦という不毛なチキンレースに突入せざるを得なくなる。つまり、利益の上がっている地域ほどドミナントしたくなるし、ドミナントされやすくなるという加盟店側にしてみれば不安定な構造になっているのだ。

 

3) 食材廃棄問題

 

恵方巻きが大量にコンビニに納品され、売れ残りが大量に廃棄される問題は毎年節分が近付くと話題になるが一向に解消される気配がない。また、少し前には売れ残った弁当を値下げ販売した加盟店がフランチャイズ本部からペナルティを受け、裁判を起こすということもあった。なぜこんなことになっているかと言えば、これもまたロイヤリティー契約の性質によるものだ。ロイヤリティーは売り上げが発生しなければ得ることは出来ない。ところが、実際に販売される商品については仕入れは全てフランチャイズ本部に対して発注されるので、実際に店舗に納品さえすれば少なくとも商品の代金は本部が得ることが出来る。食材の場合、保存が利かないので納品されても売れない商品が発生する。そのような商品は消費期限が来た時点で廃棄されることになる。廃棄された場合、商品の仕入れにかかったコストは営業利益を圧迫するが、本部にとっては既に仕入れ値分は支払われているので、それである程度相殺される。ここで問題になるのが原価率である。当然、商品には仕入れ値と原価がある。コンビニが商品の仕入れに払う値段は必ずしも商品の原価ではない。ここでいう原価とは商品の製造にかかるコストと流通にかかるコストの両方を含んでいる。もし、この原価と仕入れ値との差分が店舗での販売価格と仕入れ値との差分よりも十分に大きければ、売れなくて廃棄されたとしても結果的に本部が得られる収益が大きくなってしまうのだ。もちろん売れれば売れるだけ利益は上がるのだが、売れなくても大量に納品するだけでそこそこの利益が得られるのであれば、当然、販売予想とはかけ離れた過剰な納品が行われる動機となる。それが食材の大量廃棄へとつながっていく。

 

4) サービス複雑化問題

 

いまやコンビニはなんでも出来る。公共料金の納付やらコンサートのチケット手配、宅急便の発送だけでなく受取まで出来る。もはやコンビニ店員は日本で最も複雑な業務をこなす労働者といっても過言ではないレベルである。なんでこうなった?そりゃ簡単。だって人件費は本部が負担しなくていいコストだから。実際に仕入れが発生する商品は売れないと儲けにならない。だけど、サービスは主に人件費がそのコストの主体だ。だから、サービスがどんどん拡充されても、それを負担するのは加盟店側であって本部ではない。さらにひどいことにこれだけ複雑になったサービスを従業員に教育するコストだって加盟店側の負担だ。何しろ従業員は加盟店が雇うのであってフランチャイズ本部が雇うわけじゃないから。もちろんサービスが負担になって店舗の売り上げにまで影響するようになれば本部の利益も減少する。しかし、サービスの拡充によって顧客を引きつける効果があると期待される限りはサービスはどんどん拡充されるだろう。

 

最近問題になっている主な問題をざっと上げてみただけでも暗澹たる気分になってくる。全部、今のフランチャイズ契約の構造からはどうしても避けられない問題だからだ。もちろん、フランチャイズ本部に良識があれば、このような構造的問題を自覚してオーナー利益を最大化するために努力をすることも可能だろう。しかし、実際のフランチャイズはオーナーの利益を圧迫することになっても本部の利益を最大化する方向に舵を切っているように見えてならない。なぜならそれが可能な不平等な契約になっているからだ。でも、ここに一つだけ、フランチャイズがオーナー利益の最大化を図るように動機付ける単純明快な方法がある。それは、ロイヤリティー料が営業利益に対する比率でなくオーナー利益に対する比率で計算されるように変更することだ。

 

この変更はどんな解決をもたらすだろうか。売り上げが見込めず高い人件費を支払わなければならない深夜営業は当然オーナー利益を大きく損なうので、ロイヤリティー収入にも打撃をもたらす。そうなると、当然深夜営業による利益の向上が見込めないエリアでは深夜営業はしない方がいいという判断をするようになる。これで24時間営業の問題は解決する。ではドミナント出店はどうか?これも、ドミナント出店によって十分な顧客が獲得出来ない場合、オーナー利益が減少するためにロイヤリティー収入も減少する。だから、そもそものドミナント出店に踏み出すかどうかにそれによる顧客の獲得が出店に見合うかどうかという経営判断が必要になる。これこそ市場分析を担当するフランチャイズ本部がやるべきことである。

 

サービスの複雑化についても多少の効果はあろう。今やコンビニは割に合わないバイト先である。人手不足の昨今はコンビニも時給を上げないとバイトが来てくれない。サービスが複雑化してそれに見合う時給を払わないとバイトが集まらなくなれば、当然人件費の高騰はオーナー利益を圧迫し、ひいては本部が得られるロイヤリティー収入の減少につながる。ならば、妥当な労働量になるようにコンビニのサービスを見直す動きも起きるだろう。

 

残念ながら食材廃棄問題についてはこの変更だけでは効果は期待できない。これはフランチャイズ契約の良心の問題だからだ。仕入れ値とは実際の売価と原価の差分という販売利益を小売りと製造元でどう分配するかという問題に過ぎない。一般の商品流通ではどこから仕入れてもいいのだから、仕入れ値が高い商品は仕入れて貰えないので競争原理が働く。しかし、フランチャイズ契約の場合は本部からし仕入れられないので、そこで本部が不当に仕入れ値を高く設定することが出来る。ここは、原価率に対する規制が必要であろう。しかし、もし原価率が廃棄されるよりも売れた方が儲かるように設定されてさえいれば、ロイヤリティーの算出法の変更によってオーナー利益の最大化こそが本部の利益となることで、売れる数だけ納品した方がいいという経営判断になるだろうことが想像に難くない。

 

もちろんこの変更にも別の問題が生じる側面がある。例えば、加盟店が身内を不当に高い給料で雇った場合、本来ロイヤリティーを払って本部と分け合うべき利益が加盟店にこっそり付け替えられることになる。しかし、今のようなオーナーの利益が上がっていないのに、フランチャイズ契約を打ち切るとペナルティを支払わないといけないので店を畳むことすらできない、というおかしな状況よりも、本部がきちんと加盟店の経営を査定して、正しく経営していないと判断された加盟店とのフランチャイズ契約を本部から打ち切る方が、資本主義としてはよっぽど健全ではないかと思うのだ。